新卒として入社したばかりの若者が、退職代行サービスを利用して早期離職するケースが急増しています。
特にゴールデンウィーク明けには、退職代行「モームリ」に1日で新卒42名の依頼が殺到するなど、注目を集めています。
なぜ新卒が退職代行を選び、早期に会社を辞めるのか。その背景には、労働条件のギャップやハラスメント、やりがい不足といった深刻な問題が潜んでいます。
この記事では、新卒が退職代行を依頼する理由と、早期離職に至る実態を、インタビューやデータをもとに詳しく解説します。
- 新卒が退職代行を依頼する主な理由は、求人説明と実際の労働条件のギャップ、配属ミスマッチ、サービス残業の強制、社内研修の不在、上司との人間関係の悪化です。
- ハラスメントは退職理由の大きな要因で、パワハラや慰留ハラスメントが若者のメンタルに影響を与えています。
- やりがい不足は、希望と異なる業務やキャリア展望の欠如が原因で、売り手市場が早期離職を後押ししています。
- 退職代行の利用は、直接退職を伝えにくい環境や精神的な負担を軽減するために選ばれています。
- 企業側は、求人情報の透明性向上やハラスメント対策、職場環境の改善が求められています。
新卒が退職代行を依頼する理由とは?
新卒が退職代行を利用する理由は多岐にわたりますが、以下に主なものを挙げます。
求人説明と実際の労働条件のギャップ
退職代行「モームリ」の谷本慎二代表は、「依頼理由で一番多いのは、労働条件などが入前に聞いていた話と違ったというもの。
労働条件や給与など、企業側が良く見せすぎているパターンも増えてきているため、ギャップが発生している」と述べています。
例えば、不動産業に就職した男性は「求人票の出社時間と実際の出社時間が違った」と証言し、教育関連の仕事に就職した女性は「入社後に休日出勤の必要があると聞いた。入社前にそんな説明は一切受けていない」と不満を漏らしています。
また、「正社員で採用されたはずが非正規雇用だった」「希望より配属地が遠かった」といったケースも報告されています。

配属ミスマッチや希望外の業務
配属された部署や業務が希望と異なることも、退職代行の依頼理由として多く挙げられます。
「モームリ」の事例では、「出していた希望は通らず、配属部署から希望の部署へ移動した人はほぼいないと言われ、退職を決意した」との声があります。
また、Xの投稿では、「配属された部署とは異なる仕事をさせられる」ことが新卒の退職理由として指摘されています。
サービス残業や過重労働
サービス残業の強制も大きな理由です。
Xの投稿で、「サービス残業を強制させられる」ことが新卒の退職理由として挙げられており、モームリの調査でも「サービス残業」や「有給が取れない圧力」が退職理由の上位にランクインしています。
これらは若者のワークライフバランスを損ない、早期離職を促す要因となっています。

社内研修の不在
入社前に約束されていた社内研修が実際には存在しない場合も、退職のきっかけとなります。
Xの投稿で、「事前に聞いていた社内研修が一つもなかった」との声があり、新卒が期待していた成長機会が得られない失望感が退職代行の利用につながっています。
上司との人間関係やメンタルヘルスの悪化
上司との人間関係の悪化も大きな要因です。「モームリ」の調査によると、退職代行利用者の33.9%が「上司から各種ハラスメントを受けている」と回答し、30.2%が「上司から退職を止められている」と報告しています。
Xの投稿でも、「上司と合わず心身ともに限界を感じた」ことが退職理由として挙げられています。
これにより、メンタルヘルスが悪化し、直接退職を伝える気力を失う新卒が増えています。

ハラスメントが新卒の退職を後押しする実態
ハラスメントは、新卒が退職代行を利用する大きな理由の一つです。
以下に、具体的なハラスメントの実態を解説します。
パワハラによる精神的な負担
パワハラは新卒にとって深刻な問題です。
「モームリ」の事例では、「心身に不調が出るほど日頃からパワハラを受けおり、会社にも相談していた」との依頼者の声があります。
また、Forbes Japanの調査では、退職代行利用理由の1位が「上司から各種ハラスメントを受けている」であり、20代の利用者が特に多いとされています。
54歳の塗装製造業の課長は、部下に注意した際に「パワハラで訴えかけられた」経験を語り、過剰なハラスメント対策がコミュニケーションを難しくしていると指摘しています。
慰留ハラスメントによる退職の妨げ
退職を申し出た際の過度な引き止め行為、いわゆる「慰留ハラスメント」も問題です。
「モームリ」の谷本慎二代表は、「入社したばかりで誰に伝えてよいのかわからない、あるいは早く退職するので断られるのではないかと思って依頼する人がいる」と説明しています。
慰留ハラスメントには、「退職を認めない」「嫌がらせする」「脅す」といった行為が含まれ、精神的負担を増大させます。
これにより、新卒は退職代行を利用して会社との直接交渉を回避しようとします。

やりがい不足が早期離職を招く背景
やりがい不足も、新卒の早期離職を加速させています。
以下に、その背景を詳しく見ていきます。
希望と異なる業務によるモチベーション低下
希望と異なる業務に従事させられることで、仕事へのモチベーションが低下します。
「モームリ」の事例では、配属ミスマッチが退職理由として多く、希望部署への移動がほぼ不可能だったことが離職の決断につながっています。
新卒は入社時に描いていたキャリア像が実現しない失望感から、やりがいを見出せずに退職を選びます。
キャリア展望の欠如と売り手市場の影響
新卒採用の売り手市場が、やりがい不足による離職を後押ししています。
千葉商科大学の常見陽平准教授は、「離職が確実にステップアップにつながるとも限らない」としながらも、「表向きは『キャリアアップ』のような前向きな理由でも、実際は待遇や職場環境に不満を抱いていたケースも目立つ」と分析しています。
若者は転職が容易な環境を背景に、やりがいや成長機会が得られない職場を早期に見切り、退職代行を利用して次のステップに進もうとします。

なぜ退職代行が選ばれるのか?
退職代行が新卒に選ばれる理由は、以下の点に集約されます。
直接伝えることへの心理的ハードル
退職を直接伝えることへの心理的ハードルが高いため、退職代行が利用されます。
エン・ジャパンの調査では、退職代行利用理由の1位が「退職を言い出しにくかったから」であり、「人間関係が悪かったから」も上位にランクインしています。
特に新卒は、年長の上司に退職を切り出しにくいと感じ、退職代行を通じて精神的な負担を軽減しようとします。
迅速な退職とストレス軽減
退職代行は即日退職を可能にし、ストレスを軽減します。
「モームリ」の担当者は、「会社に不信感を抱き、関係を絶ちたいと考えて依頼する新入社員が多い」と述べ、出勤せずに退職手続きを完了できる利点を強調しています。
利用者の体験談では、「3万払って以降出勤せず、職場からの電話も来ずで辞められました」との声があり、迅速かつ円滑な退職が実現したことがわかります。

企業側に求められる改善策
新卒の退職代行利用を防ぐには、企業側の改善が不可欠です。以下に、具体的な対策を挙げます。
求人情報の透明性向上
求人情報の正確性と透明性が求められます。
「モームリ」の谷本慎二代表は、企業が労働条件を過度に良く見せる傾向がギャップを生んでいると指摘しています。
求人票や面接での情報が実際と一致するよう、企業は誠実な情報提供を徹底する必要があります。
ハラスメント対策と職場環境の改善
ハラスメント対策も急務です。「モームリ」の調査で、ハラスメントが退職理由の33.9%を占めることが明らかになっています。
社内アンケートや外部調査を通じてハラスメントの実態を把握し、心理的安全性を確保する職場環境を構築することが重要です。
キャリア支援とコミュニケーション強化
新卒のやりがいを高めるには、キャリア支援とコミュニケーションの強化が必要です。
希望部署への配属や研修の充実、定期的な面談を通じて、新卒のキャリア展望をサポートすることが離職防止につながります。
常見陽平准教授は、「採用時や入社後の面談を増やし、内定者研修も充実させた」企業が増えていると指摘しています。

さいごに
新卒が退職代行を利用する背景には、労働条件のギャップ、ハラスメント、やりがい不足といった複雑な要因が絡み合っています。
若者が早期離職を選ぶのは、単なる「我慢不足」ではなく、職場環境や企業側の不備に起因するケースが多いことが、インタビューやデータから明らかです。
企業は求人情報の透明性を高め、ハラスメント対策やキャリア支援を強化することで、新卒の定着率を向上させる努力が求められます。
一方、退職代行は新卒にとって精神的な負担を軽減し、迅速な退職を可能にする手段として、今後も利用が増えるでしょう。
若者と企業の双方が、より良い働き方を見つけられる社会を目指して、課題解決に向けた一歩が期待されます。
