2025年7月8日、東京都内で開催された宇宙ビジネスイベント「SPACETIDE 2025」で、『機動戦士ガンダム』の生みの親である富野由悠季さんが衝撃的な発言をしました。
「人類は宇宙では暮らせない」と語り、自身が描いたスペースコロニーの実現可能性を否定したのです。
この発言は、ガンダムファンや宇宙開発に関心のある多くの人々に驚きを与えました。
本記事では、富野さんがなぜこのような見解に至ったのか、その背景や発言の詳細を掘り下げます。
さらに、彼が提案する新たな宇宙進出の形についても解説します。
この記事のまとめ
- 富野由悠季さんが「SPACETIDE 2025」で宇宙移民の非現実性を主張。
- ガンダムで描かれたスペースコロニーは、約20年の考察の末に非現実的と結論。
- 宇宙エレベーターの規模や物流の課題を具体的に指摘。
- 低軌道衛星での宇宙旅行を提案し、「世界観が変わる」体験の重要性を強調。
- ガンダムの創作背景には南北戦争が影響を与えたと明かす。
なぜ富野由悠季さんは宇宙移民を否定したのか
富野由悠季さんは、イベントでの対談で「火星に移民しよう、と言っているおめでたい人たちというのは、宇宙空間の過酷さを理解していない。また、宇宙との距離感を想像する能力を持っていない人たちの集まりだ」と述べました。
この発言は、宇宙移民を夢見る人々に対する厳しい指摘として会場をざわつかせました。
富野さんは、火星への移民を例に挙げ、「火星までロケットを飛ばしたら帰るときの燃料をどうするか。向こうに補給基地はないという事実を考えないで、人間を火星まで送り込もうと言うのは全部素人だ」と続け、宇宙の過酷な環境や補給の難しさを強調しました。
富野さんがこの結論に至った背景には、ガンダム制作を通じて約20年間にわたり宇宙での生活や移動について考え続けた経験があります。
「この話はガンダムを作っているときには一度も発言ができなかった」と振り返り、作品制作当時は商業的・創作上の制約からこうした見解を公にできなかったと明かしました。
この発言は、ガンダムの世界観がフィクションとして構築されたものであり、現実の宇宙開発とは異なる課題があることを示唆しています。
ガンダムのスペースコロニー構想と現実のギャップ
『機動戦士ガンダム』では、増えすぎた人口を収容するため、地球からスペースコロニーと呼ばれる宇宙空間の居住施設に移住する世界が描かれています。
しかし、富野さんはこの構想について、「人は宇宙では暮らせない」と断言。
スペースコロニーの実現には、環境の過酷さや資源供給の課題が立ちはだかると考えています。
Xの投稿でも、ファンからは「ガンダムで語られる『スペースコロニーへの移住』は人類の夢ではなく棄民政策の産物」との声があり、物語の設定自体が理想的ではないとの見方が広がっています。
さらに、富野さんは宇宙エレベーターの例を挙げ、物流の現実性を指摘しました。
「このエレベーターは1両編成ではなく5両編成。このくらいの規模でないと物流というものを成立させることができないし、物流が成立しなくては社会生活はできない」と述べ、スペースコロニー社会を支えるインフラの規模と複雑さを具体的に説明しました。
この発言は、ガンダムの世界が描く技術的ビジョンが、現実の技術的制約と大きく異なることを示しています。
富野さんが提案する宇宙旅行の可能性
宇宙移民を否定する一方で、富野さんは新たな宇宙進出の形として低軌道衛星を利用した宇宙旅行を提案しました。
「これからの10年で日本がやるべきことは、低軌道までお客さんを連れて来て、観光旅行できるようにすることではないか」と語り、地球を外から見る体験の価値を強調しました。
特に、「政治家や軍人、宗教者、科学者に低軌道衛星まで上ってもらって地球を見ていただきたい。間違いなく世界観が変わるはずだ」と述べ、宇宙から地球を観察することで得られる視点の変化を訴えました。
この提案は、宇宙移民のような大規模なプロジェクトではなく、比較的実現可能な技術を活用したアイデアです。
富野さんは、「3日間くらい地球を観察して、機内で討論すれば大きな学びになるだろう」と続け、子供たちにもこの体験をさせるために「決定的に安全なロケット」を開発する必要性を説きました。
JAXA名誉教授の稲谷芳文さんも、「人が行かないと物語が始まらない」と応じ、若い世代に挑戦を促すメッセージを共有しました。
ガンダム創作の背景:南北戦争との意外な繋がり
対談では、ガンダムの創作背景についても興味深い話が飛び出しました。
富野さんは、ガンダムの構想時に「戦争について何も知らなかったので、いろいろ調べて『風と共に去りぬ』に出てきた南北戦争を参考にした」と語りました。
移民が物語の重要な要素だった点が、ガンダムの宇宙移民設定と共通していると説明しています。
このエピソードは、ガンダムが単なるSFではなく、歴史や人間ドラマを基盤にした作品であることを示しています。
Xの投稿でも、「南北戦争で移民?どっち?」と疑問を投げかける声があり、ファンにとってもこの情報は新鮮だったようです。
富野さんのこの発言は、ガンダムが単なるエンターテインメントを超え、歴史的・社会的なテーマを内包していることを改めて浮き彫りにしました。
さいごに
富野由悠季さんの「人類は宇宙では暮らせない」という発言は、ガンダムファンや宇宙開発に関心のある人々に大きな衝撃を与えました。
しかし、その背景には、長年の考察と現実の技術的制約への深い理解があります。
スペースコロニーの夢を否定しつつも、低軌道での宇宙旅行という現実的な提案を通じて、富野さんは人類が宇宙と向き合う新たな可能性を示しました。
ガンダムの創作に南北戦争が影響を与えたというエピソードも、作品の奥深さを改めて感じさせます。
宇宙の未来を考える上で、富野さんの言葉は私たちに新たな視点と挑戦の必要性を教えてくれるでしょう。

