鹿児島県のトカラ列島近海では、2025年6月21日以降、群発地震が頻発し、住民や専門家の間で海底噴火や津波のリスクに対する関心が高まっています。
SNS上では「トカラの法則」や「7月大災害説」といった噂も広がっていますが、科学的根拠に基づいた情報が求められています。
この記事では、トカラ列島の海底噴火と津波の危険性、そしてそれらがいつ発生する可能性があるのか、専門家の見解を交えて解説します。
この記事のまとめ
- トカラ列島近海の群発地震は、フィリピン海プレートの沈み込みによる地殻のひずみが原因です。
- 現在の群発地震は火山性地震の特徴を示しておらず、海底噴火の兆候は確認されていません。
- 津波の発生には大規模な断層運動が必要ですが、現在の地震規模では大きな津波の可能性は低いです。
- 地震や噴火の正確な発生時期の予測は現代科学では困難です。
- 「トカラの法則」や「7月大災害説」には科学的根拠がありません。
トカラの海底噴火と津波の危険性
トカラ列島は、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込む琉球海溝沿いに位置する火山島です。
この地域は地殻の動きが活発で、群発地震がたびたび発生しています。
2025年6月21日から7月3日までに、震度1以上の地震が1000回を超え、最大震度6弱を記録しました(気象庁発表)。これにより、海底噴火や津波の危険性が注目されています。
東京大学地震研究所の笠原順三名誉教授は、最近の群発地震について「マグマが地下から浅いところに上がってきている可能性があり、震源の深さが海底付近まで浅くなっている」と指摘します。
特に、7月2日の震度5弱の地震では震源の深さが1km程度と非常に浅く、海底噴火のリスクに言及しています。
「もし溶岩が海底に出ると、1989年の伊東沖の群発地震と噴火のような事態につながるかもしれない」と述べています。
しかし、熊本大学の横瀬久芳准教授は「現在の群発地震には火山性地震の特徴が見られず、噴火の兆候ではない」との見解を示しています。
トカラ列島周辺には高温のマグマだまりが存在するものの、現在の地震はプレート境界のひずみによる活断層型地震が主であり、噴火の可能性は低いとしています。
津波については、横瀬准教授が「津波は動いた断層が長いほど大きくなるが、現在の群発地震で動く断層の距離は短く、大きな津波が起きるとは考えにくい」と説明しています。
過去の例として、2022年のトンガ沖海底火山噴火では津波が発生しましたが、トカラ列島周辺で同様の大規模噴火が起きる兆候は現時点で確認されていません。
いつ海底噴火や津波が起こる可能性があるのか
地震や海底噴火の正確な発生時期を予測することは、現代の科学技術では極めて困難です。
気象庁は、トカラ列島近海の群発地震について「収束時期は分からない」とし、引き続き震度5強程度の地震に注意を呼びかけています。
東京科学大学の中島淳一教授は「海底下のマグマや水などの流体が断層に入り込み、壊れやすくなっている可能性がある」と指摘しますが、具体的な噴火のタイミングについては予測できないとしています。
また、過去のデータによると、トカラ列島では2021年12月に308回、2023年9月に346回の震度1以上の地震が記録されましたが、いずれも数日から数週間で収束しました。
今回の群発地震はすでに過去のケースを上回る1000回を超えており、異例の活動が続いています。
しかし、これが直ちに海底噴火や津波につながる証拠はなく、専門家は長期的な観測の必要性を強調しています。
「トカラの法則」や「7月大災害説」の真偽
SNS上では「トカラ列島で地震が頻発すると日本のどこかで大地震が起きる」という「トカラの法則」や、「2025年7月に大災害が起きる」という噂が拡散しています。
しかし、横瀬久芳准教授は「トカラの法則には科学的根拠が一切ない」と明確に否定しています。
同様に、気象庁や他の専門家も「7月大災害説」について科学的根拠がないと断言しています。
これらの噂は、2016年の熊本地地震や2024年の能登半島地震の前にトカラ列島で群発地震が観測されたことを根拠に広まったものですが、地震学では統計的・物理的な因果関係が証明されていません。
鹿児島大学の井村隆介准教授も「トカラ列島の地震が南海トラフ巨大地震に影響を与えることは考えにくい」と述べています。
トカラ列島の地質的特徴と地震の原因
トカラ列島は、琉球海溝沿いに位置し、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に年間約6cmの速度で沈み込む地域です。
この沈み込みにより、周辺の海底には大東海嶺や奄美海台といった巨大な地形が存在し、これらがプレートに衝突することで複雑なひずみが生じています。
横瀬久芳准教授は「トカラ列島近海は、九州サイズの大型ダンプカーが100万年くらい衝突し続けているような特殊な海域」と表現し、横ずれ断層による活断層型地震が頻発する原因を説明しています。
この地質的特性により、トカラ列島は地震活動が活発な地域として知られていますが、南海トラフ地震との直接的な関連は否定されています。
防災のためにできること
トカラ列島近海の地震活動を受け、気象庁は「当面、震度5強程度の地震に注意し、すぐに避難できるよう準備してほしい」と呼びかけています。
津波のリスクは現時点で低いものの、過去のトンガ沖海底火山噴火(2022年)では、遠く離れた日本に1.2mの津波が到達した事例があり、注意が必要です。
防災対策としては、以下の点が推奨されます:
- 避難経路の確認:津波や地震に備え、避難場所や経路を事前に確認しておきましょう。
- 情報収集:気象庁や自治体の公式発表を基に、正確な情報を入手してください。
- 防災グッズの準備:非常持ち出し袋や食料、水などを常備しておくことが重要です。
「Tsunami Safe ~津波による犠牲者を一人でも減らすために~」のようなサイトでは、津波対策の具体的な情報が提供されており、参考になります。
さいごに
トカラ列島近海の群発地震は、地質的な特性による自然現象であり、現時点で海底噴火や大規模な津波の兆候は確認されていません。
専門家の見解では、津波のリスクは低く、「トカラの法則」や「7月大災害説」には科学的根拠がないことが明らかです。
しかし、地震活動が活発な地域であるため、引き続き警戒と準備が必要です。
正確な情報に基づき、冷静な判断と防災対策を心がけましょう。

