近年、職場への不満を「仕返し」として退職する「リベンジ退職」が注目を集めています。これまでは主に若い世代の現象とされてきましたが、今、好業績の企業で実施される「黒字リストラ」が引き金となり、40代・50代のベテラン社員の間で怒りが広がっています。「ここまで貢献したのに」という思いが、静かな報復へと変わる可能性が指摘されています。この記事では、「リベンジ退職」の実態と、黒字リストラがもたらす中高年の心理を、最新の事例や専門家の見解を基に詳しく解説します。
この記事のまとめ
- 「リベンジ退職」とは、職場への不満や怒りを背景に、意図的に会社に迷惑をかける形で退職する行為です。
- これまではZ世代が中心でしたが、黒字リストラの増加により40代・50代にも広がっています。
- 2025年の早期・希望退職募集は1万7875人で、その約7割が黒字企業でした。
- 対象は主に40代・50代のベテランで、「ここまで貢献したのに」という怒りがリベンジの火種となっています。
- 企業側は予防として1on1の対話や評価の透明化を求められています。
- 黒字リストラの事例として、三菱ケミカルやパナソニックHDなどで大規模な削減が進んでいます。
「リベンジ退職」って何? その定義と特徴
「リベンジ退職」とは、従業員が職場や会社に対して抱いた不満、怒り、恨みといった報復感情を動機として、意図的に会社に迷惑をかける形で退職する行為を指します。単なる自己都合退職とは異なり、退職を通じて企業に損害を与える点が最大の特徴です。
具体的な行動例として、繁忙期を狙った突然の退職、業務引継ぎの拒否や放棄、重要データの削除、退職後のSNSでの悪評拡散などが挙げられます。これらは会社に業務混乱や信頼低下を引き起こし、場合によっては損害賠償の対象となることもあります。
この言葉は、アメリカで広がった「Loud Quitting(騒がしい退職)」の概念が基になっており、日本では2025年頃からメディアやSNSで急激に注目されるようになりました。背景には、ハラスメントの放置、不当な評価、過重労働などの不満が長年蓄積されるケースが多く、「最後に一矢報いたい」という心理が働いていると言われています。
若者中心だった「リベンジ退職」が中高年に広がる理由
これまではZ世代の採用ミスマッチや理不尽な扱いへの反発が主な動機でしたが、現在は新たな火種がくすぶっています。それが「黒字リストラ」の急増です。
黒字リストラとは、業績が好調な企業が将来の競争力強化や組織の軽量化を目的に、早期・希望退職を募集するものです。2025年、早期・希望退職を実施した上場企業の約7割が黒字企業で、募集人数は1万7875人に達しました。これはリーマン・ショック以降で3番目の高水準です。
対象の多くは40代・50代のベテラン社員です。長年会社に貢献してきた人々が、「会社は家族同然」という古い価値観が崩壊したと感じる瞬間です。横山信弘氏のエキスパート記事では、「長年貢献してきたベテラン社員が『この仕打ちは何だ』と感じれば、それは静かな怒りとなり、リベンジ退職という形で噴き出す」と指摘されています。
黒字リストラの実態と50代の怒りの爆発
具体的な事例を見てみましょう。三菱ケミカルでは50歳以上の約3割が希望退職に応じました。パナソニックHDは40〜59歳を主な対象に国内外1万人規模の削減を進めています。これらはすべて黒字企業での措置です。
東京商工リサーチのデータによると、2025年に早期・希望退職を募集した43社のうち、黒字企業は29社(構成比67.4%)でした。企業側は「持続的な成長のため」「経営基盤の強化」と説明しますが、ベテラン社員にとっては「ここまで貢献したのに」という裏切り感が強いのです。
第一生命HDでは50歳以上を対象に1000人の希望退職を募集し、約1.8倍の1830人が応募しました。割増退職金が最大48カ月分という好条件でも、残留を選ぶか退職を選ぶかの分岐点で、怒りや失望が交錯しています。
こうした状況が「リベンジ退職」の連鎖を招く恐れがあります。一人が不満をSNSで発信すれば、他のベテランも同調し、ドミノ倒しのように離職が広がる可能性があります。
企業が直面する「リベンジ退職連鎖」の恐怖
「リベンジ退職」が連鎖すると、企業は深刻なダメージを受けます。突然の引継ぎ拒否で業務が停滞したり、悪評が広がって採用に悪影響が出たりします。特に中高年層は社内ノウハウを多く持っているため、一人の離脱が現場全体に波及しやすいです。
横山信弘氏は対策として、(1)定期的な1on1で対話すること、(2)評価基準を数字で明示し納得感を高めること、(3)兆候を管理職で共有することを挙げています。リベンジ退職は突発的に見えても、事前の兆候がある場合が多く、「予防」の視点が重要です。
一方で、一部の見解では、リベンジ退職を「自己回復行動」や「尊厳を取り戻す象徴的な行為」と捉える声もあります。不満が爆発する前に、組織が丁寧に対応する必要があると言えるでしょう。
さいごに
黒字リストラの増加は、企業が生き残るための構造改革の一環ですが、同時に長年貢献してきた50代の「怒り」を生み出しています。「ここまで貢献したのに」という思いが、リベンジ退職という形で爆発すれば、企業と個人の双方に深い傷を残します。
今、企業はベテラン社員の尊厳を尊重したコミュニケーションを強化しなければなりません。一方、働く側も「会社は運命共同体ではない」という現実を認識し、自分のキャリアを主体的に守る準備が求められています。こうした変化の渦中で、私たちはどう生きていくのか。改めて考えるきっかけになれば幸いです。

