化粧品業界の老舗として長年輝きを放ってきた資生堂が、2024年12月期に108億円の最終赤字を計上し、4年ぶりの赤字転落となりました。この衝撃的なニュースは、多くの投資家や消費者の間で波紋を広げています。かつて中国市場を成長のエンジンとして急拡大を遂げた同社ですが、景気減速や競争激化の波に飲み込まれ、国内でも販売の足元が揺らぎ始めています。この記事では、最新の決算データや関係者の声を基に、赤字の核心に迫ります。なぜここまで厳しい状況に陥ったのか、そして今後の道筋をどう見据えるのかを、丁寧に紐解いていきます。
この記事のまとめ
- 資生堂の赤字転落の主因は、中国市場の消費減速と現地ブランドの台頭による売上減少で、全体売上の約半分を占めるこの地域の不振が業績を直撃しています。
- 国内販売低迷は、プレミアム化戦略の弊害で低価格帯の顧客層を競合に奪われ、市場シェアの7割近くを失った結果、ボリュームゾーンの需要が細っています。
- 構造改革費用として288億円を計上したことで最終赤字が拡大しましたが、2025年はグローバルなコスト削減とブランド集中で黒字転換を目指す方針です。
- 藤原憲太郎社長のインタビューから、中国依存の脱却とデジタルシフトの加速が鍵で、2026年までにコア営業利益率7%回復の見通しです。
資生堂赤字転落の本当の理由:中国市場変動の衝撃波
資生堂が直面する最大の試練は、何と言っても中国市場の変動です。この国は同社の売上高の約27%を占める稼ぎ頭でしたが、2024年に入り急激な減速が訪れました。景気低迷が続き、消費者の節約志向が強まる中、高価格帯の化粧品需要が二極化しています。富裕層向けのラグジュアリー商品はまだ堅調ですが、資生堂の主力ブランド「SHISEIDO」は中価格帯で苦戦を強いられています。
具体的に見てみましょう。2024年12月期の中国事業売上は前年比5.3%減で、特に免税店(トラベルリテール)での落ち込みが深刻です。中国政府の転売規制強化により、かつての爆買い需要が急減。加えて、現地メーカーや韓国ブランドの低価格攻勢が激しく、資生堂のシェアを食い荒らしています。例えば、若年層の間で人気の「プチプラ」コスメがSNSで爆発的に広がる一方、資生堂製品は「コスパが悪い」との声が目立ち始めました。
ここで、藤原憲太郎社長の言葉を引用しましょう。2025年5月の決算説明会で同社長は、「中国の景気減速と価値観の変化が、ブランドポジションを揺るがせています。価格競争に巻き込まれないよう、デジタルマーケティングを強化し、若者向けのコミュニケーションを刷新します」と語っています。この発言は、中国依存の限界を認め、構造的なシフトの必要性を示唆しています。実際、2023年の福島処理水放出問題が日本製品への不信を助長したのも事実ですが、それ以上に競争環境の変化が根本原因です。資生堂は1981年から中国進出を果たし、オリンピック公式サプライヤーとしても名を馳せましたが、今やその栄光が逆風に変わりつつあります。
さらに深掘りすると、トラベルリテール事業の不振が中国変動を加速させています。空港や免税店での販売が全体の10%近くを占めていましたが、在庫調整と訪日中国人減少で売上が急落。2025年1〜3月期でも、中国関連の減収が全体の27%減益に直結しました。この連鎖は、単なる一過性のものではなく、グローバルサプライチェーンの再構築を迫る深刻な課題です。
国内販売低迷の内幕:失われた顧客層の悲劇
中国の嵐が吹き荒れる中、国内市場の低迷も見過ごせません。日本事業は売上高の約24%を担う基盤ですが、2024年は回復の兆しを見せつつも、全体として低調です。原因は、過去20年にわたる「プレミアム化」戦略の硬直化にあります。高付加価値路線を追求した結果、ラグジュアリー領域ではディオールやエスティローダーに後れを取り、中価格帯では韓国・中国ブランドにボリュームゾーンを奪われました。結果、日本市場の7割近くが競合に流れ、資生堂のシェアは縮小の一途を辿っています。
淑徳大学経営学部の雨宮寛二教授は、最近のインタビューでこう指摘します。「資生堂は中高価格帯に選択と集中しましたが、それが『イノベーターのジレンマ』を招きました。低価格顧客を切り捨てたツケが、今国内販売の低迷として返ってきています」。教授の分析通り、Z世代の消費者はSNS映えする手頃なコスメを求め、資生堂の伝統的なカウンセリング販売が時代遅れに感じられるようになりました。2024年12月期の日本事業コア営業利益は前年比で微増しましたが、インバウンド回復が鈍く、百貨店やドラッグストアでの棚割りが厳しくなっています。
加えて、構造改革の影響が国内に及びました。2024年に約1500人の早期退職を実施したことで、販売現場の士気が低下。独立採算制の導入も、短期的なコスト増を招きました。藤原社長はこれについて、「国内は成長を継続していますが、グローバル全体のバランスを取るため、厳しい決断を続けます」と述べています。この低迷は、中国変動の余波を増幅させる要因でもあり、資生堂の再生には国内基盤の再強化が不可欠です。
低迷の数字から読み解く実態
- 2024年売上高:日本事業は前年比1.8%増の2376億円ですが、実質ベースでは競合シェア喪失でマイナス成長。
- 顧客離れの兆候:低価格帯売上が前年比10%減、中価格帯で韓国ブランドに15%のシェアシフト。
- 回復の兆し:エリクシールなどのスキンケアが堅調で、2025年はデジタル販売を20%拡大予定。
構造改革の光と影:2025年の勝負所
赤字転落の背景には、構造改革費用288億円の計上もあります。日本・中国中心の人員削減や店舗閉鎖が、短期的に利益を圧迫しました。しかし、これがなければ黒字維持できた可能性もあり、藤原社長は「2025年を勝負の年とし、グローバルに改革を拡大します」と強調します。具体的には、注力ブランド8つ(SHISEIDO、クレ・ド・ポー ボーテなど)に投資を集中し、他は撤退・縮小を検討。2024〜2025年で400億円のコスト低減を目指します。
一方で、買収ブランドの誤算も影を落とします。2019年に900億円で買収した米「ドランク・エレファント」は、生産トラブルで顧客離れを起こし、2025年11月時点で468億円の減損を計上。過去最大の520億円赤字見通しに繋がりました。この教訓から、資生堂は「SHIFT 2025 and Beyond」アクションプランを加速。高価格帯スキンケアへの集中とESG深化で、2026年コア営業利益率7%回復を掲げています。
さいごに
資生堂の赤字転落は、中国市場の変動と国内販売低迷が交錯した結果ですが、そこには長年の戦略的硬直化の蓄積があります。藤原社長の決意のように、厳しい改革を通じてブランド価値を再構築できれば、V字回復の道は開けます。化粧品業界は変化の激しい世界。
資生堂が日本発の強みを活かし、消費者の声に耳を傾け続ける限り、再び輝く日は近いでしょう。皆さんの日常に寄り添う美しさが、きっと戻ってきます。

