日産自動車が2025年3月期に過去最大となる7500億円の連結純損失を計上する見通しを発表しました。
この巨額赤字は、リストラ費用や販売不振、電気自動車(EV)市場での出遅れなどが背景にあり、倒産リスクを懸念する声も上がっています。
もし日産が倒産した場合、従業員や日本経済にどのような影響が及ぶのでしょうか。
本記事では、最新の情報をもとにその影響を詳しく解説します。
- 日産の2025年3月期の純損失は7500億円で、過去最大規模。
- 倒産した場合、13万人以上の従業員の雇用や生活に深刻な影響が及ぶ可能性。
- サプライヤーや関連企業への波及効果で、自動車産業全体に連鎖倒産のリスク。
- 日本経済では、雇用喪失や地域経済の停滞、税収減少が懸念される。
- 専門家の意見として、倒産回避のための経営統合の必要性が指摘されている。
日産が倒産したらどうなる?
日産が倒産した場合、どのようなシナリオが想定されるのでしょうか。
以下では、従業員、日本経済、そして自動車産業全体への影響を具体的に見ていきます。
従業員への影響:13万人超の雇用危機
日産はグローバルで約13万4000人の従業員を抱えています(2024年3月時点)。
日本国内では約2万3000人が働いており、倒産した場合、これらの従業員の雇用に深刻な影響が及びます。
すでに日産は2024年11月に9000人の人員削減と生産能力20%削減を発表しました。
内田誠社長は「厳しい状況を迎えていることは痛恨の極み」と述べ、業績不振の責任として役員報酬の50%自主返納を表明しています。
しかし、倒産となれば、さらなる大規模なリストラや雇用の全喪失が現実となる可能性があります。
日産労組の幹部は、9000人リストラ発表時に社内の不安を語っており、「会社全体がピリピリしている」との声が上がっています。
倒産に至れば、従業員の生活基盤が崩れ、転職や再就職の困難さから失業率の上昇も懸念されます。
特に、横浜市や栃木県など日産の工場が立地する地域では、地域経済への打撃が大きくなると考えられます。
日本経済への影響:連鎖倒産と税収減
日産は日本を代表する自動車メーカーであり、その倒産は日本経済全体に波及します。
日産と取引する国内企業は1万3283社に上り、部品メーカーなどの1次中小サプライヤー1060社のうち、最新期で40.8%が減益、15.2%が赤字と、すでに厳しい経営環境にあります。
日産の倒産は、これらのサプライヤーに連鎖倒産を引き起こすリスクがあり、過去の例では、日産系列のマレリホールディングスが2022年に1兆円超の負債で簡易再生を申請したケースが参考になります。
東京商工リサーチの分析によると、日産グループの1次中小サプライヤーの売上高は前々期比16.9%増だが、利益は8.3%減と低迷しており、日産の業績悪化がサプライチェーンに動揺を与えています。
ある部品メーカー幹部は「日産に利益を還元できる力が残っていない」と述べ、コスト削減要求に応じる余力が乏しい現状を明かしています。
さらに、日産の倒産は税収減少にもつながります。
日産は2024年3月期で4266億円の黒字を計上していましたが、7500億円の赤字転落は法人税収の大幅な減少を意味します。
地域経済では、横浜市西区の本社や工場所在地の自治体で、雇用喪失や関連企業の撤退による経済停滞が懸念されます。
自動車産業全体への波及:競争力低下と再編の加速
日産の倒産は、日本の自動車産業の競争力低下を招く可能性があります。
トヨタやホンダと比較して、日産は北米や中国市場での販売不振やEV戦略の遅れが顕著です。
特に中国市場の低迷と北米での販売奨励金(値引き)膨張が赤字拡大の主要因とされています。
業界内では、日産の苦境がサプライヤーの再編を加速させる可能性も指摘されています。
国内ファンド関係者は「ファンドを活用したダイナミックな再編も選択肢」と述べ、サプライチェーンの再構築が急務であるとしています。
また、2024年12月に破談となったホンダとの経営統合協議の失敗は、日産の自力再建の難しさを浮き彫りにしました。
専門家の見解:倒産回避の道は?
元日産最高執行責任者で、現在はINCJ会長の志賀俊之さんが、朝日新聞のインタビューで日産の倒産リスクについて語っています。
志賀さんは、ホンダとの経営統合破談について「日本にとって千載一遇のチャンスだった」とし、倒産危機を回避するためには「日産ブランドを支えるファンや従業員、取引先の生活を守る」視点が重要だと強調します。
さらに、「ホンダの子会社になっても倒産の危機にさらされるよりよっぽど良い」と述べ、統合の再交渉を推奨しています。
この発言は、日産が単独での再建に限界があることを示唆しており、業界再編や他社との戦略的パートナーシップが倒産回避の鍵となる可能性を示しています。
なぜ日産は7500億円の赤字に陥ったのか?
日産の巨額赤字の背景には、複数の要因が絡み合っています。
販売不振と市場での競争力低下
日産は北米と中国の二大市場で苦戦しています。
2024年9月中間決算では、営業利益が90.2%減の329億円に落ち込み、自動車ローンを除く営業損益は1161億円の赤字でした。
特に北米では、競争激化による販売奨励金の増加が利益を圧迫。中国市場では、EV需要の急増に対応できず、シェアを失っています。
朝日新聞は、日産が「新型車の投入を計画していなかった」経営判断の失敗を指摘。内田誠社長も「できなかったというより、そういう判断をした」と認めています。
競合のトヨタやホンダがコロナ禍で新車開発を進めていたのに対し、日産の消極姿勢が競争力低下を招きました。
リストラ費用の負担
日産は9000人の人員削減や3工場の閉鎖に伴うリストラ費用として、約1000億円を計上しています。
これが赤字拡大の一因です。
東洋経済は、過去のカルロス・ゴーン元会長時代(2000年3月期、6843億円の赤字)と同水準の危機だと報じ、固定資産減損や構造改革費用の重さを強調しています。
経営陣への批判と求心力低下
社内では、内田誠社長の求心力低下が問題視されています。
ある社員は「報酬5割カットでは甘すぎる。経営陣全員が退任すべき」と厳しく批判。
元幹部も「このままでは5年後に日産がなくなってもおかしくない」と危機感を表明しています。
経営陣の状況認識の甘さが、赤字拡大を招いたとの見方もあります。
日産の今後の課題と展望
日産は倒産を回避し、経営を立て直すためにどのような道を進むべきでしょうか。
自力再建の限界と統合の必要性
ホンダとの経営統合協議は2024年12月に破談となりましたが、志賀俊之さんは「日産は小さなことで感情的にホンダに反発している」と批判し、再交渉の必要性を訴えます。
日産は同日、「自社の企業価値を高める戦略的パートナーシップを追求する」と表明していますが、具体策は不透明です。
EV戦略の強化
日産はEV市場での遅れを取り戻すため、中国で2000億円超の研究開発投資を計画し、新型EV(リーフのSUV化など)を投入予定です。
しかし、競合他社との技術格差やコスト競争力の課題が残ります。
サプライチェーン支援と地域経済対策
サプライヤーの経営悪化を防ぐには、日産が取引条件を見直し、値引き圧力を緩和する取り組みが必要です。
また、政府や自治体による雇用支援や地域経済対策が、倒産時のダメージを軽減する鍵となります。
さいごに
日産の7500億円赤字は、従業員、日本経済、自動車産業に深刻な影響を及ぼす可能性を秘めています。
13万人超の雇用危機やサプライヤーの連鎖倒産、税収減少は、日本経済全体の課題です。
志賀俊之さんのインタビューが示すように、経営統合や戦略的パートナーシップが倒産回避の現実的な道かもしれません。
日産がこの危機を乗り越え、ブランドと従業員を守れるかどうかは、今後の経営判断にかかっています。
引き続き、2025年5月13日の通期決算発表に注目が集まります。