チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世さんが、2025年7月6日に90歳の誕生日を迎える中、その後継者選びが世界的な注目を集めています。
ダライ・ラマ14世さんが表明した「輪廻転生」に基づく後継者選定の継続と、中国政府の介入に対する強い拒絶が、チベット仏教の伝統と現代の政治的緊張の間で議論を呼んでいます。
この記事では、ダライ・ラマ14世さんの後継者選びのプロセスと、中国政府との対立の背景、そして今後の展望について詳しく解説します。
この記事のまとめ
- ダライ・ラマ14世さんは、輪廻転生に基づく後継者選定制度を継続すると表明。
- 後継者選定の権限は、ダライ・ラマ14世さんが設立したガンデン・ポタン財団に委ねられ、外部の介入を認めない。
- 中国政府は後継者選びに政府の承認が必要と主張し、チベット仏教の指導者選定への介入を強める姿勢。
- 過去のパンチェン・ラマ問題から、中国の介入がチベット仏教の伝統に及ぼす影響が懸念される。
- ダライ・ラマ14世さんの声明は、チベット人の文化的・宗教的アイデンティティの維持を目指す。

ダライ・ラマの後継者はどうやって決まる?
ダライ・ラマ14世さんは、2025年7月2日、インド北部ダラムサラで開催されたチベット仏教の指導者会議で、後継者選定に関する声明を発表しました。
声明では、「ダライ・ラマ制度(輪廻転生)は存続する」と明言し、伝統的な方法で後継者を選ぶ方針を強調しました。
このプロセスは、チベット仏教の核心である「輪廻転生」に基づいています。
具体的には、ダライ・ラマが亡くなった後、高僧たちが予言や神託、聖なる湖(ラモイ・ラツォ湖)の観察などを通じて生まれ変わりの候補者を探し、厳格な試験を経て後継者を認定します。
例えば、ダライ・ラマ14世さん自身も、2歳のときに先代の遺品を正しく選び出す試験を経て、転生者として認定されました。
このプロセスでは、候補者が先代ゆかりの品物に愛着を示したり、先代と同じ行動を取ったりすることが重要な基準となります。
ガンデン・ポタン財団の幹部は、「後継者は性別や国籍を問わず、チベットに限定されない」と述べており、従来の枠組みを超えた柔軟な選定の可能性も示唆されています。

輪廻転生とは?チベット仏教の伝統を解説
輪廻転生は、チベット仏教において、ダライ・ラマやパンチェン・ラマなどの高僧が死後に新たな体に生まれ変わるとする信仰です。
ダライ・ラマは観音菩薩の化身とされ、チベットの人々にとって精神的・文化的象徴です。
この転生制度は、15世紀から続くチベット仏教ゲルク派の伝統であり、ダライ・ラマ14世さんはその14番目の転生者です。
転生者の選定には、聖なる湖でのビジョンや夢占い、先代の遺言などが用いられます。
例えば、ダライ・ラマ13世さんが亡くなった後、遺体の頭が北東を向いたことや、聖なる湖に現れた文字が手がかりとなり、現在のダライ・ラマ14世さんがアムド地方で発見されました。
このような神秘的かつ厳格なプロセスは、チベット仏教の信仰と文化を体現するものとして、チベット人にとって重要な意味を持ちます。

中国政府の介入とその背景
中国政府は、ダライ・ラマ14世さんを「分裂主義者」とみなして警戒し、後継者選びに「政府の承認が必要」と主張しています。
2025年7月2日の中国外務省の会見で、毛寧報道官は「ダライ・ラマの転生は中国の法律や規則、宗教儀式、歴史的慣習を順守しなければならない」と述べ、チベット仏教の指導者選定に介入する姿勢を改めて示しました。
過去の事例として、1995年のパンチェン・ラマ11世の選定では、ダライ・ラマ14世さんが認定した6歳の少年が行方不明となり、中国政府が別の人物を認定しました。
この少年は現在も行方が分からず、チベット仏教徒の間では中国の選択は正統でないとされています。
この事件は、中国がダライ・ラマ15世の選定にも同様の介入を試みる可能性を示唆しており、チベット亡命政府や信者たちの懸念を高めています。
中国共産党は、チベット仏教の指導者選定を政治的に利用することで、チベット地域の統制を強化しようとしていると見られます。
一方で、ダライ・ラマ14世さんは「新たなダライ・ラマは自由世界から生まれる」と述べ、中国外での転生の可能性を強調し、中国の介入を牽制しています。

チベット亡命政府と国際社会の反応
チベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相は、ダライ・ラマ14世さんの声明を支持し、中国の介入を警戒しています。
ツェリン首相は、「中国が独自の後継者を立てることで、チベット仏教の伝統を歪める可能性がある」と警告しました。
また、米国や欧州諸国に対して、チベット問題への関心を高めるよう働きかけており、2021年以降、チベットが中国の一部であるという主張を否定するよう求めています。
国際社会では、ダライ・ラマ14世さんの非暴力政策と人権擁護の姿勢が評価され、1989年のノーベル平和賞受賞につながりました。
しかし、中国政府はダライ・ラマ14世さんとの公式な対話を2010年以降行っておらず、交渉の進展は見られません。
米国では、チベット問題を支持する法案が可決されるなど、一定の後ろ盾が存在しますが、中国の強硬姿勢により、解決は容易ではありません。

ダライ・ラマ14世の健康と今後の展望
ダライ・ラマ14世さんは、2024年に米国で病気治療を受けた際も、「医師から健康状態に問題はない」と言われたと述べ、笑顔で信者たちに語りかけました。
しかし、90歳という高齢を考慮すると、後継者問題はより現実的な課題となっています。
チベット亡命政府や信者たちは、ダライ・ラマ14世さんの長寿を願いながらも、後継者選定の準備を進めています。
ダライ・ラマ14世さんは、2011年に政治的権力を選挙で選ばれたリーダーに譲り、チベット亡命社会の民主化を推進しました。
これにより、転生者が成人するまでの「権力の空白」を防ぐ仕組みが整えられています。
早稲田大学の石濱裕美子教授は、「今回の声明は、チベット人のダライ・ラマ制度存続への強い願いに応えたもの」と分析しています。

さいごに
ダライ・ラマ14世さんの後継者選びは、チベット仏教の伝統と中国の政治的介入が交錯する複雑な問題です。
輪廻転生に基づく選定プロセスは、チベット人の文化的・宗教的アイデンティティを象徴するものであり、ダライ・ラマ14世さんの声明は、その伝統を守る決意を示しています。
一方で、中国政府の介入は、チベット問題の国際的な緊張をさらに高める可能性があります。
チベット仏教の未来と、ダライ・ラマ15世の選定がどのように進むのか、引き続き注目が必要です。
