みちのく記念病院で起きた患者間殺人隠蔽事件は、医療現場の信頼を大きく揺るがす出来事です。この事件では、患者同士の殺人事件が発生したにもかかわらず、病院側がそれを隠蔽し、虚偽の死亡診断書を作成するなど、組織的な問題が明らかになりました。以下では、事件の詳細を事実に基づいて解説します。
この記事のまとめ
- 2023年3月、青森県八戸市のみちのく記念病院で、入院患者が同室の患者を歯ブラシで刺殺する事件が発生しました。
- 病院側は事件を隠蔽し、死因を「肺炎」とする虚偽の死亡診断書を作成して遺族に交付しました。
- 認知症疑いの高齢医師が200枚以上の死亡診断書を作成しており、その7割が肺炎と記載されていました。
- 看護記録が改ざんされ、事件発覚を防ぐための組織的な隠蔽が疑われています。
- 2025年11月、元院長に有罪判決が下され、2026年2月にはコンプライアンス委員会が発足し、理事長が謝罪しました。
- この事件は医療界全体の信用を損ない、病院運営の改善を迫るものとなりました。
患者間殺人事件の発生と詳細
みちのく記念病院で起きた患者間殺人事件は、2023年3月12日深夜に発生しました。入院中の男(当時59歳)が、同室の男性患者(当時73歳)の顔面を歯ブラシの柄で何度も突き刺し、殺害したのです。この男はアルコール依存症などの治療のために入院していましたが、事件後、殺人罪で起訴され、2024年7月に懲役17年の判決が確定しました。
事件の詳細を振り返りますと、被害者の男性は相部屋で療養中でした。加害者の男は、歯ブラシの柄を使って被害者の目を刺すなど、残忍な方法で暴行を加えました。被害者は血だらけの状態で発見され、手当てを受けましたが、翌13日午前10時10分に死亡が確認されました。病院側は当初、遺族に対して「転んだ」と説明していましたが、これは事実と異なっていました。
この事件は、精神科病棟での患者管理の不備を露呈させるものでした。加害者の男は事件後、閉鎖病棟に医療保護入院させられましたが、これは逮捕を妨げるための措置だったと青森県警はみています。哲容疑者(当時主治医)は精神保健指定医の資格を持っており、家族の同意なしに市町村長の同意で強制入院が可能でした。このような背景から、事件は単なる患者間のトラブルではなく、病院の体制問題が絡んだものとして注目を集めました。
さらに、事件発生時の看護記録によると、加害者の男は「やったのは、おれだ」「歯ブラシで、何度も刺した」と発言していたことが記されていました。これらの記録は、事件の真相を明らかにする重要な証拠となりましたが、病院側がこれを隠蔽しようとした点が問題視されています。
病院側の隠蔽行為と偽死亡診断書
事件の隠蔽行為は、病院側の組織的な関与が疑われています。当時の院長である石山隆容疑者(62歳)と、その弟で被害者・加害者の主治医だった石山哲容疑者(60歳)が、犯人隠避容疑で2025年2月に逮捕されました。彼らは、殺人事件を知りながら警察に届け出ず、死因を「肺炎」とする虚偽の死亡診断書を遺族に交付した疑いが持たれています。
この虚偽の死亡診断書は、病院で「みとり医」と呼ばれる高齢医師によって作成されていました。この医師は、夜間や休日に遺体を診察せずに診断書を書く役割を担っていましたが、驚くべきことに、認知症の疑いで病院に入院中の患者だったのです。病院関係者の証言によると、「死亡診断書を書いて署名した医師は認知症の疑いがあり、事件当日医師として勤務していたものではなく、入院患者として病院にいたものです」とのことです。このような状態の医師が診断書を作成していた事実は、医療倫理の観点から深刻な問題です。
さらに、調査で明らかになったのは、このみとり医が作成した死亡診断書が200枚以上に上り、その7割が「肺炎」と記載されていた点です。これらの診断書は、遺体を直接診察せずに作成されており、病院の常態化された不正行為を示しています。青森県警は、これを組織ぐるみの隠蔽とみて捜査を進めました。石山隆容疑者は、法廷で「病院を守るため」に隠蔽したと語っており、弟の哲容疑者が「肺炎でいけるんじゃない」と提案したことが動機の一端だったそうです。
この隠蔽は、病院の信用を維持するための身勝手な行動として非難されています。判決では、「医師の職業倫理にもとる行動で、酌量の余地はない」と厳しく指摘されました。
看護記録の改ざんと内部の実態
事件の隠蔽をさらに深くする要素として、看護記録の改ざんが挙げられます。被害者の看護記録では、最初に「歯ブラシで刺した」などの危害を示唆する記述があったものが、「徘徊中ぶつけたようで血だらけ」と書き換えられていました。この改ざんは、看護師の一人が同僚に頼まれて行ったもので、「もとの記録には『歯ブラシ』『殺そうと思った』という言葉があった」と証言しています。
この書き換えは、事件発生後の13日14時16分に行われたと記録されており、県警もこれを把握して経緯を調べています。捜査関係者によると、院長の石山隆容疑者の指示のもとで隠蔽が進んだ可能性が高く、看護師らが意向をくんで行動したとみられています。
病院の内部実態として、常勤ではない医師を常勤医として報告していた問題も発覚しました。これにより、2024年9月に青森県から改善命令を受けています。また、夜間の死亡診断がみとり医に常態化していた点は、病院の独特な体制が原因だったと指摘されています。こうした実態は、医療現場の人手不足や管理体制の不備を浮き彫りにしました。
裁判の経過と判決
事件の裁判は、2025年9月25日に初公判が開かれ、石山隆被告は起訴内容を認め、「間違いありません」と述べました。判決は同年11月20日に青森地裁で下され、懲役1年6月、執行猶予3年となりました。蔵本匡成裁判長は、「誠に身勝手で浅はかだ。医師の職業倫理にもとる行動」と非難しつつ、被告が事実を認め反省を示している点から執行猶予を付けました。
弟の石山哲被告も犯人隠避罪で起訴されており、病院全体の責任が問われました。この判決は、医療機関の隠蔽行為に対する厳しい司法の姿勢を示すものです。また、病院は不適切な診療報酬請求も発覚し、東北厚生局から自主返還を求められています。
コンプライアンス委員会の発足と理事長の謝罪
事件後の改善策として、病院を運営する医療法人杏林会は2026年2月7日、コンプライアンス委員会を発足させ、初会合を開きました。この委員会は、弁護士の熊谷清一氏が委員長を務め、外部委員4人と内部委員3人で構成され、任期は2年です。今後、職員の法令順守研修や内部通報制度の整備に取り組みます。
初会合後の記者会見で、石山菜穂理事長は「医療界全体の信用を損なうようなことを起こしたことを心から申し訳なく思う。地域の皆さんの望みに応えたい」と謝罪しました。また、「診療できなさそうな医師や、仕事をしない非常勤医師には辞めてもらった」「現在は常勤医師の人数を増やし、本来医師がすべき仕事は医師が、看護師は看護師の仕事をするように変わっていっている」と説明しています。この会見は、事件後初の公の場での陳謝となり、ワンマン体制と職員のゆがんだ意識が原因だったと認めました。
この発足は、青森県の改善命令を受けた対応であり、病院の独特な体制が事件の原因だったと理事長自らが認めています。
さいごに
みちのく記念病院の事件は、医療現場の隠蔽体質と倫理の欠如を象徴する出来事でした。このような問題が再発しないよう、コンプライアンスの強化と透明性の確保が求められます。医療界全体が信頼を回復するためには、根本的な体制改革が必要です。患者の安全を最優先に考える姿勢が、今後ますます重要になるでしょう。

